「メタモルフォーゼが届けるもの」 日本画家・大竹寛子

家電 × ART。壁に掛ける写真や絵画のように、長く愛せるアートピースのように、冷蔵庫を選ぶ楽しみを。気鋭のアーティストたちと、小型冷蔵庫の扉をキャンバスにしたコラボレーションを展開する「TOBIRAE」プロジェクト。
愛着を持って、長く大切にしたいと思えるものと暮らすこと。使えなくなった冷蔵庫たちはスピーカーなどに形を変えて蘇ります。物語の始まりに、最初のページの扉絵をめくるように。

日本画の伝統的な技法を基に、箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開し、国内外で広く活躍する気鋭の日本画家・大竹寛子さん。この春には渋谷西武デパートの全館プロモーションと共に開催された個展「-fleurs et papillons-」でも大きな話題を集めました。柔らかな光が差し込む彼女のアトリエにて、お話を伺いました。

TOBIRAEの持つ
「アートが生活に溶け込む」面白さ

現在は日本のみならずアメリカやヨーロッパでも活躍する日本画家の大竹寛子さん。近年は鏡を使ったオブジェ作品や、サウンドインスタレーションと共に行うライブペインティング、はたまた北欧家具BoConceptとのコラボレーションから、茂木健一郎氏の著作の装丁まで。日本画の伝統を生かしながら、現代アートの世界でもその活躍の場を広げています。今回の「TOBIRAE」プロジェクトについての感想をこう語ってくれました。「まず作家としては、平面作品が立体物になる楽しさがありますよね。そして自分の作品が家電になって、毎日使ってもらえるという嬉しさもあります。アートが生活に溶け込んでいく面白さ、というのでしょうか。思い出は自分の身の回りのものたちと共に育っていくもの。使ってくださる人の毎日の生活を見届けるような作品になってくれたら、私も嬉しいです」。

「Circulation」

 

「Landscape where is not here」

モチーフは花と蝶
完全変態(メタモルフォーゼ)とは

花と蝶をモチーフに作品を描く大竹さん。今回「TOBIRAE」のために提供してくださった作品にも無数の蝶や花々が散りばめられています。「私の作品では蝶も花もそれぞれ象徴として、その存在を描いています。蝶を描くきっかけになったのは完全変態(メタモルフォーゼ)という彼らの生態について知ったことでした。蝶は幼虫から蛹になるときに、一度全て液体になり、そこから新たな形を形成します。流動的なものから新たに生まれる命、成長への願望が込められています。そして、揺らぎ、うつろい、いつの日か朽ち果てる儚さ。花も、蕾から咲いて、やがて枯れる。その変化の中にこそ、新たな再生があるのだと思っています」

日本画の魅力は
相反するその素材感に

「日本画の魅力はその素材感にあると思います。金や銀などの箔の上に、にかわ(動物の肉と皮の間の成分)を混ぜた岩絵具などの顔料で描いていきます。どちらかというと箔の上に『乗せていく』という表現が近いかもしれません。相反する素材を混ぜ合わせ、画面を構成していく面白さ。なかなかPCやスマホの画面上ではこの素材感は伝わらないかもしれませんが、機会があればぜひ実物も見て欲しいですね」。
作品制作のペースについて伺うと、同時進行で常に5、6枚を制作しているとのこと。顔料が乾くまでの間に、次の作品に取り掛かる。個展前など、多い時には月に30点ほど製作することもあるという。

文化庁の派遣制度でニューヨークへ
外から自分を見つめること

2015年から2016年までの一年間、大竹さんは文化庁の新進芸術家海外派遣制度によりニューヨークに滞在し、現地での作品制作や個展なども精力的に開催。日本を一度離れたことで得られたものとは。
「海外に出れば私の作品は日本画という枠組みではなく、一絵画として見てもらうことができます。日本では日本画家という肩書きで見られますが、海外における肩書きは『アーティスト』。そのため私自身もジャンルの枠に縛られずに、作品を見る目を養えたように思います。また、外に出ることで自らのアイデンティティを改めて再確認することができました。温故知新。日本画に受け継がれている素晴らしい伝統を用いながらも、現代に生きるアーティストとして挑戦を続け、作品をアップデートしていきたいです」。

衣食住と作品制作
嘘のない暮らしを求めて

基本的には床置きで作品を描くため、埃などは大敵。アトリエは常に綺麗に保っていたいという。
「良いと思えるものに囲まれて、嘘のない生活を送れたら素敵ですよね。それは自ずと作品にも反映される気がしていて。気になる箇所に目をつぶって、見逃すようなことは避けたいと思ってしまうんです(笑)」。
部屋の全面に広がる大きな窓、心地よいグリーンに囲まれた部屋には現代美術家ボスコ・ソディのレンガの作品を始め、様々なアーティストの作品も飾られている。

TOBIRAEは
「捨てる」の先を考えるプロジェクト

「断捨離という言葉をよく聞きますが、TOBIRAEは『捨てる』の先を考えるきっかけをくれるプロジェクトだと思います。愛着を持って、直しながら長く愛用する。もし壊れても無料で引き取ってもらえて、そしてアップサイクルで別の価値を持つものに生まれ変わる。メタモルフォーゼのように、その形を変えることでゴミが減っていき、人々の意識に問いかける。家電でもあり、アート作品でもあるTOBIRAEだからできることだと思います。これまでにアートを買ったことのない人でも、このTOBIRAEをきっかけに、毎日の暮らしの中でじわじわと好きになってもらえたら嬉しいですね」。


撮影:野崎 航正
取材:TOBIRAE編集部

大竹寛子 日本画家

2011年 東京藝術大学大学院美術研究科博士課程 日本画修了 美術研究博士号取得
2015-2016 年 文化庁新進芸術家海外派遣制度(アメリカ・ニューヨーク)
長年研鑽を積んだ日本画の伝統的な技法を基に、箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開し、国内外で広くアート活動を行っている。また北欧家具BoConcept や、MIKIMOTO、L’ATELIER do Joel Robuchon、ADOREなど、企業とのコラボレーションや、茂木健一郎「今ここからすべての場所へ」連城三紀彦「女王」など本の装丁も多数行っている。
http://www.hiroko-otake.com/ja/